豆の焙煎のこと、器のこと、静けさのこと。一杯の珈琲をお出しするまでに考えていることを、三つの章でお話しします。
Roasted in Store, Every Week.
豆は店内の小型焙煎機で、毎週少量ずつ焙煎しています。一度にたくさん焼かないのは、焼き上がりから日の浅い豆だけをお出ししたいからです。香りがいちばん立つのは、焙煎から数日のあいだ。その短い時間を逃さないように、店の棚にはいつも、焼きたての豆だけが並んでいます。
焙煎の日、店には豆のはぜる音が響きます。一はぜ、二はぜ。火を止めるタイミングは秒の単位で、豆の顔色と音を頼りに決めています。同じ豆でも、季節によって水分量が違うので、焼き方は毎回少しずつ違います。マニュアル通りにいかないところが、この仕事のいちばん面白いところです。
淹れ方も、豆に合わせて変えています。ご注文をいただいてから一杯分ずつ挽き、その日の気温と湿度を見て湯温を決め、ゆっくりとお湯を落とします。お出しするまでに少し時間をいただきますが、その数分も含めて、珈琲の時間だと考えています。

一杯の珈琲は、
焙煎の日から始まっている。— Every Cup Begins at the Roaster.

No Two Cups Are the Same.
カップは、近隣の窯元や古道具屋で少しずつ集めてきたものです。開店の準備をしていた頃、たまたま手に取った一客の口あたりがあまりに良くて、それから器を探す旅が始まりました。棚に並ぶカップに、同じものは二つとありません。
器が変わると、同じ珈琲でも味の印象が変わります。薄づくりの磁器は香りの輪郭をくっきりと、厚手の陶器は口あたりをまろやかに。深煎りの日は重さのある器を、浅煎りの日は軽やかな器を。その日の珈琲と、お客さまの雰囲気に合わせて、カウンターの内側で一客ずつ選んでいます。
長く使われてきた古い器には、前の持ち主の時間が染みこんでいるような気がします。欠けを直しながら使い続けているカップもあります。今日はどの器で出てくるのか。それも、この店の小さな楽しみのひとつになれば嬉しいです。
器が変わると、
同じ一杯の表情も変わる。— The Vessel Changes the Cup.
Quiet Hours, Kept with Care.
焙煎機の音が止むと、店にはレコードの音と、古時計の振り子だけが残ります。音楽はいつも、会話のじゃまをしない音量で。照明は、本の文字が読めるぎりぎりの明るさに絞っています。店のしつらえはすべて、「静かに過ごせること」から逆算して決めてきました。
電源とWi-Fiを置いていないのも、同じ理由です。パソコンの仕事よりも、本や、考えごとや、隣の人とのゆっくりした会話に向いた店でありたいと思っています。ノートと万年筆は、この店によく似合います。
お一人での読書や考えごとの時間を、心から歓迎しています。窓際には一人掛けの席を、本棚には店主の好きな本を少しだけ。長居を、どうぞ気兼ねなく。お代わりの頃合いは、こちらで気をつけて見ています。
