PR動画や採用動画の見積もりを取ってみて、金額を見たところで止まってしまった——というご相談を、よくいただきます。そのときに必ずお伝えしているのが、「撮影は自分でやって、編集だけ頼む」という頼み方があるということです。業界では「素材支給」と呼ばれます。難しそうな言葉ですが、要はスマートフォンで撮った映像を渡して、そこから先を任せるという意味です。
先に結論をお伝えします。動画の費用は「1本いくら」で決まっているのではなく、工程ごとの積み上げで決まります。ですから、工程のうち自分で持てるところを持てば、その分は見積もりから外れます。そして、いちばん自分で持ちやすいのが撮影です。
ただし条件がひとつあります。渡した素材がそのまま使える状態でないと、かえって手間が増えます。安くしたくて自分で撮ったのに、結局撮り直しになった——というのが、いちばんもったいない結果です。この記事では、①費用が工程で決まる仕組み ②自分で撮って安くなる仕事・ならない仕事 ③渡す前に確かめる7つ ④撮影メモの付け方 ⑤見積もりで確認する4つの言葉 ⑥自分で撮らないほうがいい3つの場面、を順にご案内します。
この記事には金額の相場を書いていません。理由は01章でお伝えします。また、スマートフォンの撮影設定の名前(画質・フレームレートなど)は機種やOSのバージョンによって表示が異なりますので、お手元の端末の設定画面と読み替えてください。記載は2026年8月時点のものです。お客様の映り込みや音楽の扱いについては、店舗のショート動画の記事の05章で扱っていますので、あわせてご覧ください。
01動画の費用は「1本いくら」では決まらない
動画制作の見積書は、会社によって項目名がばらばらです。ただ、中身を並べ替えると、だいたい次の4つのかたまりに収まります。
①企画・構成は、何を撮るか・どういう順番で見せるかを決める工程です。台本や絵コンテがここに入ります。②撮影は、撮る人の手間と、機材と、場所と、日数です。③編集は、撮った映像をつないで、文字(テロップ)を載せて、音を整える工程です。④確認と受け渡しは、直しのやりとりと、書き出し・納品です。
この4つのうち、お店の側が現実的に持てるのは②撮影で、次に持ちやすいのが①企画・構成です。③編集は道具と慣れが要りますので、ここを任せるのが「編集だけ頼む」という形になります。
なぜ、この記事に相場を書かないのか
「動画制作 費用 相場」で検索すると、たくさんの料金表が出てきます。ただ、それを並べて見ていただくと分かるのですが、同じ「30秒の動画」でも、サイトによって示される目安がまったく揃っていません。一桁ちがうことも珍しくありません。どれが嘘というわけではなく、想定している撮影の規模や出演者の有無が違うからです。
ですので、金額の帯を覚えても、目の前の見積もりが妥当かどうかの判断には使えません。それより役に立つのは、自分の見積書の1行1行が、上の4つのどれの作業なのかを言えることです。それができれば、「この行は自分でやります」と言える場所が見つかります。見積書そのものの読み方は、相見積もりの見方の記事にホームページの例で書いていますが、考え方は動画でも同じです。
ひとつだけ補足します。見積書に「動画制作一式」としか書かれていないことがあります。これは制作側にとって出しやすい書き方で、それ自体が悪いという話ではありません。ただ、この形のままだと「自分でやるので、その分を外してください」という相談ができません。内訳を分けて出していただけますか、と聞いてかまいません。聞かれる側も慣れている相談です。
02自分で撮って安くなる仕事、ならない仕事
撮影を自分で持つのが向いている仕事と、向いていない仕事があります。分かれ目はひとつ、「もう一度撮り直せるかどうか」です。何度でも撮り直せるものは、自分で撮ってかまいません。一度きりのものは、任せたほうが結果的に安く済みます。
| 撮りたいもの | 自分で撮る | 理由 |
|---|---|---|
| 商品・料理・仕上がり | 向いています | いつでも同じものを並べ直せます。何十回撮っても損がありません |
| 店内・外観・設備 | 向いています | 逃げません。明るい時間帯を選び直せます |
| 作業風景・手元 | 向いています | 毎日やっている作業なら、翌日また撮れます |
| ビフォーアフター | 条件つき | 「ビフォー」はその日にしか撮れません。撮り忘れると成立しないので、先に撮る癖をつけてから |
| スタッフのひとこと | 条件つき | 撮り直せますが、話す内容を決めておかないと何度も撮ることになります。台本の記事を先に |
| イベント・式・お客様の来店シーン | 向きません | その日その時間しかありません。失敗しても取り返せない場面です |
| インタビュー(きちんと聞かせたいもの) | 向きません | 音がすべてです。マイクなしのスマートフォンでは、周りの音に負けます |
表の上4つに入るものが多いお店であれば、素材を自分で用意する形は現実的です。逆に、撮りたいものが下3つに寄っている場合は、無理に自分で持たず、撮影から相談されたほうが早いと思います。
分かれ目は「上手に撮れるか」ではなく、撮り直せるか。撮り直せるものなら、下手でも構いません。
03渡す前に確かめる7つ
ここがこの記事の中心です。素材を受け取る側から見て、「これは直せません」「これは作業が増えます」となるのは、だいたい決まった7つです。撮る前に決めておくものと、渡す前に確認するものが混ざっていますので、順番に並べます。
- 縦か横か、先に決めるいちばん多い行き違いが、ここです。あとから縦を横に、横を縦にはできません(無理に切り取ると、人や商品が画面から外れます)。ホームページや会社案内に載せるなら横向き、SNSの縦の画面に出すなら縦向きです。両方に使いたい場合は、両方で撮ってください。同じ場面をもう一度撮るだけです。
- 画質の設定を確認してから撮るスマートフォンのカメラ設定に、動画の画質を選ぶ項目があります(機種によって表示は異なります)。この設定を一度見てから撮り始めてください。撮ったあとで画質を上げることはできません。迷ったら、いちばん低い設定になっていないかだけ確かめれば十分です。あわせて、本体の空き容量も見ておいてください。途中で止まるのが、いちばん惜しい失敗です。
- 音が要るのか、要らないのかを決めるあとから音楽と文字を載せるつもりなら、現場の音は使いません。この場合は多少うるさくても大丈夫です。逆に話している声を聞かせたい場合は、静かな時間に、なるべく口の近くで撮ってください。エアコン・冷蔵庫・換気扇・店内のBGMの音は、あとから消そうとすると声まで痩せます。撮る前に、止められる機械は止めてしまうのがいちばん早いです。
- 手ブレは「動かないこと」で防ぐ歩きながら撮った映像は、編集で完全には落ち着きません。足を止めて、肘を体につけて、5秒静止する。これだけで使える素材になります。どうしても動かしたい場合は、ゆっくり、一方向にだけ動かしてください。行ったり来たりさせると、どこも使えなくなります。
- 暗いところで撮らない暗い映像を明るくすると、ざらざらした粒が浮きます。これは編集では消せません。昼間の窓際が、いちばん手軽で費用のかからない照明です。夜の店内を撮りたい場合も、まず店内の照明を全部つけてから撮ってください。光の考え方はスマホ撮影の記事に写真の例で書いていますが、動画も同じです。
- 1カットは、長めに撮る短く撮ってしまうと、つなぐときに使える部分が残りません。撮り始めてから2〜3秒待って、動作をして、終わってからまた2〜3秒待つ。この前後の「待ち」が、編集でのつなぎしろになります。それと、同じ場面を2回以上撮っておいてください。1回しかない素材は、そこに何か写り込んでいたときに逃げ場がありません。
- 渡し方を先に聞いておく最後に置きましたが、実は撮る前に聞いておくのがいちばんよい項目です。動画のデータは写真よりずっと大きく、メッセージアプリで送ると自動的に小さく圧縮されることがあります。小さくなったデータは元に戻せません。ファイル転送サービスやクラウドの共有フォルダなど、どの方法で渡せばよいかを先に確認してください。「この方法で送っていいですか」と一言聞くだけで防げます。
この7つを、受け取る側の目線で表にすると、こうなります。「作業が増える」に当たるものが多い場合は、渡す前にもう一度撮ったほうが早いです。
| 項目 | そのまま使えます | 作業が増える・撮り直しになります |
|---|---|---|
| 向き | 使う場所に合わせて統一されている | 縦と横が混ざっている/使う場所と逆になっている |
| 画質 | 撮影したときのデータのまま | 一度アプリに上げたものを保存し直した/転送で圧縮された |
| 音 | 声を使わない、または静かな場所で撮れている | 声を使いたいのに、機械音やBGMのほうが大きい |
| ブレ | 足を止めて撮れている | 歩きながら撮っている/ぐるぐる動かしている |
| 明るさ | 昼の窓際、または照明を全部つけた状態 | 暗い/逆光で顔が黒くつぶれている |
| 長さ | 前後に数秒の余りがある/同じ場面が複数ある | 動作の途中で切れている/その場面が1回しかない |
| 渡し方 | 圧縮されない方法で渡している | メッセージアプリで送って小さくなっている |
04撮影メモを1枚つけると、やりとりが減る
素材を渡すときに、紙1枚(メールの本文でも十分です)のメモを添えてください。これがあるかないかで、往復の回数がはっきり変わります。ファイル名を見ただけでは、どれが何の映像なのか、どれを使ってほしいのかが分からないからです。
この5つのなかで、いちばん効くのは4番目の「使えない部分」です。他のお客様が写っている、たまたま別の店の看板が入っている、まだ出していない商品が置いてある——こうしたことは、撮った本人にしか分かりません。先に伝えておけば、その部分を避けて組み立てられます。あとから気づいて直すと、組み直しになります。
もうひとつ、5番目の「入れてほしい文字」も、必ず自分で書き出してください。店名の漢字、商品名の送り仮名、電話番号、営業時間。映像から読み取って入力すると、間違いが起きます。ここだけは面倒でも、手で書くほうが安心です。
そしてSTEP 2の試し撮り。本番を全部撮る前に、1本だけ撮って見てもらってください。「もう少し寄ってください」「その角度だと影が出ます」といったことが、この1往復で片づきます。撮り終わってから言われるより、はるかに楽です。
05見積もりのときに確認する、4つの言葉
「編集だけお願いしたい」と伝えるときに、あわせて確認しておくと後で困らないことが4つあります。金額の交渉ではありません。どこまでが含まれているかを、先にはっきりさせておくための質問です。
- 「素材をこちらで用意した場合、見積もりはどう変わりますか」——これが本題です。撮影の行が外れるのか、それとも「素材確認」のような行が新しく増えるのか。増える場合もあります。その場合も、理由を聞けば納得できるはずです。
- 「直しは何回までですか。それを超えるとどうなりますか」——動画は、文字の修正ひとつでも書き出しからやり直しになります。回数の決まりがある場合が多いので、先に聞いておいてください。決まりがあること自体は、普通のことです。
- 「できあがった動画は、どこで使ってよいですか」——ホームページだけなのか、SNSにも出してよいのか、広告に使ってよいのか。あとから使う場所を増やしたくなることは、よくあります。使う予定のある場所を先に全部伝えておくと、それを含んだ形で出してもらえます。音楽を使う場合は、その音楽の条件によって使える場所が決まることもあります。
- 「書き出しは何本ですか。縦と横の両方をいただけますか」——同じ内容でも、横向きと縦向きは別のデータです。何本必要かを先に伝えてください。あとから追加になるかどうかも、ここで分かります。
この4つは、値切るための質問ではなく、お互いの前提を揃えるための質問です。聞かれて嫌な顔をされる内容ではありません。むしろ、先に決まっているほうが作る側も進めやすくなります。
06自分で撮らないほうがいい、3つの場面
ここまで「自分で撮れば費用は下げられます」という話をしてきましたので、逆のこともきちんと書いておきます。次の3つは、自分で撮らないほうがよい場面です。
1. その日その時間しかない出来事
開店の日、周年のイベント、式典。失敗しても、もう一度お願いできません。「撮れていなかった」「音が入っていなかった」が起きたときに、取り返す方法がないのがこの種類です。ここだけは、撮る人を頼んでください。何度もある場面ではありませんので、費用のかけどころとしても納得しやすいと思います。
2. 人が大勢映る場面
店内にお客様が入っている時間帯や、地域のイベント。映っている方一人ひとりに、あとから確認を取るのは現実的ではありません。自分で撮る場合は、お客様のいない時間に撮るか、映り込まない角度で撮ってください。どうしてもお客様に登場していただきたい場合は、声のかけ方も含めて事前に相談されたほうが安心です。この点はショート動画の記事の05章で詳しく扱っています。
3. 音が主役になる場面
お客様の声、代表の挨拶、職人が説明しながら作業する場面。映像は多少荒くても見てもらえますが、音が聞き取れない動画は最後まで見てもらえません。そして音は、編集ではほとんど救えません。スマートフォンの内蔵マイクは、話し手から離れるほど周りの音を拾います。話す内容を聞かせたい動画は、撮影から任せることをおすすめします。
安くする方法を知っていることと、安くしてはいけない場所を知っていることは、両方でひとつです。
Qよくあるご質問
撮影は本当に自分でやって大丈夫ですか。素人が撮った映像でも使えるものになりますか?
撮り直せるものであれば、大丈夫です。プロとの差が大きく出るのは、一度きりの場面をその場で押さえきる力と、音を整える力です。逆に、商品を並べて撮る、店内を撮る、いつもの作業を撮るといった「何度でも撮り直せるもの」は、回数をかければ十分に使えるものになります。撮る腕前より、撮り直せる状況かどうかのほうが効きます。そのうえで、この記事の03章にある7つ、とくに「向きを先に決める」「暗いところで撮らない」「足を止めて撮る」の3つを守っていただければ、渡したあとで作業が増える原因はかなり減ります。もし不安であれば、本番を全部撮る前に1本だけ撮って見てもらってください(04章のSTEP 2です)。角度や明るさの直しは、この1往復でだいたい片づきます。撮ったものを見てもらってから本番に入る、という順番にするだけで、やり直しの数は変わります。
スマホで撮った動画のデータは、どうやって渡せばよいですか。LINEやメールで送ってもよいでしょうか?
先に渡し方を確認してから撮る、というのがいちばん安心です。動画のデータは写真よりずっと大きく、メッセージアプリやメールで送ると、途中で自動的に小さく圧縮されることがあります。小さくなったデータは元に戻せません。せっかく良い設定で撮っても、渡す段階で画質が落ちてしまうということが実際に起こります。一般的には、ファイル転送サービスやクラウドの共有フォルダを使う方法や、パソコンにつないでそのままコピーする方法などがあります。どれを使うかは相手の環境にもよりますので、「どの方法で渡せばよいですか」と一言聞いてください。撮り始める前に聞いておくのがおすすめです。あわせて、スマートフォンの本体の空き容量も見ておいてください。撮影の途中で容量が足りなくなって止まる、渡す前に整理しようとして間違って消してしまう、というのは意外に多い失敗です。渡し終わって完成を確認するまでは、元のデータを消さずに残しておいてください。
「編集だけ」でお願いしたあとに、やっぱり撮り直したいと言うことはできますか?
できますが、その分の作業は改めて必要になります。ここが、素材を自分で用意する形のいちばん注意すべき点です。撮影を任せている場合、撮り直しはもともとの段取りのなかで調整できることがあります。一方、素材を渡して編集が進んだあとで撮り直しになると、編集をどこまで戻すかという話になり、進み具合によっては組み直しに近い作業になります。ですので、順番として「撮り終わってから相談する」のではなく、「撮る前に何を撮るかを相談し、試し撮りを見てもらってから本番を撮る」という流れをおすすめしています。この記事の04章の図が、その順番です。また、見積もりの段階で「直しは何回までか」「それを超えた場合はどうなるか」を確認しておいてください(05章です)。決まりがあること自体は普通のことで、先に分かっていれば困りません。分からないまま進むのがいちばん困ります。
撮った映像に、他のお客様やスタッフが映り込んでしまいました。そのまま渡してよいでしょうか?
そのまま渡していただいてかまいませんが、必ずメモに書き添えてください。「3本目の後半に、他のお客様が写っています」という一行があるかないかで、扱いがまったく変わります。書いてあれば、その部分を避けて組み立てられます。書かれていないと、そのまま使ってしまってから気づくことになり、公開後に直すという最悪の順番になりかねません。撮る段階での考え方としては、お客様のいない時間に撮る、映り込まない角度を選ぶ、というのがいちばん手間がかかりません。スタッフの方に登場していただく場合は、どこで公開するのかを事前に伝えて、了解を得たうえで撮ってください。あとから「SNSにも出します」と付け足すと、話が違うということになりがちです。お客様に登場していただきたい場合は、声のかけ方や記録の残し方も含めて、撮る前にご相談ください。この点は、店舗のショート動画の記事の05章でも扱っています。
+まとめ
持ち帰っていただきたいのは3つです。①動画の費用は工程の積み上げなので、自分で持てる工程を持てば、その分は外れる ②外れるのは「そのまま使える素材」を渡せたときだけ。03章の7つを確かめてから渡す ③一度きりの場面・人が大勢映る場面・音が主役の場面は、自分で撮らない。
①は、見積書の金額を全体で見るのをやめて、行ごとに見る、という話です。②は、安くするつもりが逆に手間を増やすという、いちばんもったいない失敗を避けるための条件です。③は、削ってはいけない場所の話です。この3つを押さえていただければ、「編集だけ頼む」という形は現実的な選択肢になります。
それと、最初の一歩としておすすめしたいことがひとつあります。今日、店の中で商品をひとつ、5秒だけ撮ってみてください。足を止めて、明るいところで、横向きに。それを見返すと、この記事に書いた7つのうち、自分がどこでつまずくかがすぐ分かります。読むより早いです。
※ 本記事の記載は2026年8月時点のものです。スマートフォンの撮影設定の名称・画面表示は、機種やOSのバージョンによって異なります。また、制作の進め方や見積もりの項目の立て方は会社によって違いますので、実際の条件は依頼先にご確認ください。本記事は、動画を作ることで集客や採用の結果が出ることをお約束するものではありません。